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  • 2017.04.13

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 高等学校入学式 式辞

    出たとこ勝負

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(挨拶部分省略)
 おととしのことだったと思いますが、香港に遊びに行ったとき、私は携帯電話をなくしてしまいました。成田空港のロビーで母親に電話したところまでは覚えているのですが、香港のホテルに着いてロッカーに仕舞おうとしたところ見当たりません。荷物をひっくり返して探したのですが、発見できませんでした。
 どこかに落としたとすると、成田空港、あるいは飛行機の中、香港の空港、あるいはホテルまでの移動中ということになります。
 まずは一番可能性が高い成田空港に連絡をしました。説明をすると、相手は「出国前ですか、出国後ですか」と聞いてきました。同じ成田空港でもそれによって窓口が違うのだそうです。なるほど。あの出国ゲートを出た後というのは、場所はもちろん日本の地面の上にあるのだけれど、そこは日本の領土ではないという考え方なんだな、ということに気づきました。知ってはいましたが、実感として領土ということについて初めて考えることになりました。出国した後に携帯を使ったことを伝え、そちらの窓口に回してもらいました。届いてはいないということで、見つかった時の連絡をお願いして電話を切りました。
 次にできることは何か。拾った人に携帯を悪用されないように、一時的に回線を止めてもらう必要があります。電話会社のウェブサイトで紛失した時に連絡する番号を調べ、ホテルから電話してみました。ところが通じません。紛失受付用の電話番号は無料通話になるので、海外のホテルの部屋からはつながらないようになっているらしい。どうしようか考えたのですが、手っ取り早く日本にいる友達に代わりに電話をかけてもらうように頼むことにしました。事情を説明すると友人は快く引き受けてくれて、かわりに回線をストップしてくれました。とりあえず、これで悪用されることがなくなったので、あとは気楽にできることを考えることにしました。電話そのものは買い換えればよいのですが、中に入っている連絡先などのデータは自分にとってはやはり大切なので、できれば見つけたいという気持ちで、やれることを考えました。
 飛行機の中で落としたのかもしれないので、次は香港にある航空会社の事務所に電話をしました。利用したのが日本の航空会社だったので、気軽に電話をしたのですが、日本語のできるスタッフがおらず、英語での対応でした。恥ずかしいのですが私はほとんど英語がしゃべれません。みんなに「英語の勉強頑張れ」とこれからときどき話をすることがあると思いますが、自分が英語で苦労することが多いので、是非みんなには身につけてほしいと願っています。それでも何とか事情を説明し、見つかったら連絡してもらうように依頼しました。
 残るは香港の空港からホテルまでですが、これは市バスなどを使って移動したので、すぐには良いアイディアが浮かびませんでした。
 とりあえずここまでかと思っていたところ、2時間ほどたったとき、香港の空港から電話がありました。ありがたいことに、飛行機の中を掃除する会社の人が見つけてくれたというのです。荷物の棚の中にあったそうです。おそらくデイパックのポケットから滑り落ちてしまったのでしょう。すぐに取りに行くことにしたのですが、これまた苦手な英語で事務所の場所を確認するのが大変でした。でも相手も嫌がらずに親切に何度も説明してくれました。それにしても海外でモノをなくして、ちゃんと戻って来るなんていうことがあるのだなぁ、と香港の人たちの親切にちょっと嬉しい気持ちになりました。
 バスに乗って、さっき入国したばかりの香港の空港に戻りました。しかし私が向かうのはよく知っている乗客が使うエリアではなく、従業員や航空会社の人たちが働いているエリアです。荷物を運ぶ会社、機内食を扱う会社、整備を担当する会社など、様々なオフィスが並んでいる長い廊下を進んでいき、ようやく目指す清掃会社を見つけることができました。私がダメな英語で聞き取ったことは間違っていなかったようです。それにしても空港のバックヤードがずいぶん広いことに驚きました。
 香港到着5時間にして、ようやく携帯電話と再会することができました。

 今日みなさんにこんなどうでも良い話をしたのは、この時の経験によって私は「学ぶ」ということについて考えさせられたからです。せっかくの海外旅行で、遊ぶ時間が減ってしまったのは確かですが、無駄な時間だったとは思えないのです。
 何か困難に出会ったとき、この時の私の困難は携帯電話をなくすというとても小さな困難だったわけですが、困難を解決するためにいろいろなことを試してみます。その時には自分の持っている知識をフル活用します。一所懸命に人に伝える努力をします。そういう流れの中で、新たな知識を手に入れ、今まで気づかなかったことを発見し、誰かの親切に感謝し、そしてようやく解決にたどりつくことができます。いや、解決しないこともあります。それでも努力の最中に得た新たな学びは自分の心と体に残ります。
 人は誰でも物事がスムーズに進むことを望みます。でもスムーズな経験から学べることは少ない。困難な経験、面倒な経験、これらが人を成長させます。身に着く「学び」がそこにはあります。
 キミたちはこれから3年間この学校で過ごします。楽しいことがたくさんあるでしょう。でも楽しくないことももちろん起こります。でもそこにこそ学ぶチャンスが待っているかもしれません。楽しくないことから逃げないでください。学校という場所は基本的に面倒くさいところです。毎日来なくてはいけない。好き嫌いにかかわらず授業を真剣に受けなくてはいけない。それぞれの授業ではいろんな課題が与えられます。担任からはああしろ、こうしろと指示が繰り返される。クラスには気の合わない奴がいる。部活の練習はきつい。でもそういう面倒なことこそがキミを成長させるのだということを忘れないでいてください。
 そしてこのことは我々教職員、そして保護者の方々も気を付ける必要があります。大人も物事がスムーズにいくことをついつい目指してしまいます。生徒に任せずに自分でやってしまった方が簡単です。でもそのために生徒から学ぶチャンスを奪う結果になってしまっては元も子もない。我々大人の側に必要なのは待つ力ということになります。
 中学や高校で学ぶことにはほとんど答えがあります。でも実際の社会で出会う問いには答えのないものの方が多い。その時々で最適だろうということを考え、実行していく必要があります。そういう実践的な力は先ほどから繰り返しお話しているように、困難を解決したり、面倒を乗り越えたりすることによって身についていくものだということを忘れないでください。新入生のみなさん。今日から一緒に本当の「学び」に取り組んでいきましょう。
(挨拶部分省略)

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